ロードバイクと慣性の法則 (1)

【慣性の法則】

今回は,慣性の法則について書いてみようと思います。

ロードバイクを走らせるのは,物体を運動させるということですから,ロードバイクの走りは,運動の力学である「ニュートン力学」の法則にしたがうことになります。

ニュートン力学の法則は,3つあるのですが,その中で「第1法則」と呼ばれるのが「慣性の法則」です。

慣性とは,「習慣のようになった性質」という意味の言葉ですが,かんたんに言うと,「動いているものは,そのままのスピードで動き続ける性質を持ち,止まっているものは,そのまま止まっていようとする」,そんな感じです。

「そのままの速さを維持しようとする性質」とも言えます。

たとえば,
止まっているときは,0km/h を維持しようとする。
(つまり,止まり続けようとする)
走っているときには,30km/h を維持しようとする。
ということです。

でも,地球上では空気の抵抗やら,地面との摩擦などがありますから,実際にはスピードはだんだん落ちていきます。

だからといって,慣性がないわけではありません。ですから,自転車はこぐのをやめてもしばらくは走り続けます。「惰性」という言葉を使うこともありますが,これは「慣性」です。


【慣性質量】

では,ロードバイクを走らせる上で,慣性がどう関係するのでしょう。

ここでは,もう一つ「慣性質量」という言葉を説明しなければなりません。

これは日常生活でも感じることですが,「重いものほど動かしにくい」ということがあります。これを言い換えると,「重いものほど,止まっていようとする慣性が大きいので,動かしづらい」ということになります。

そこで,バイクとライダーの体重を合わせた重さが大きいほど,止まっている状態からある速度に達するまで加速するのに,大きな力が必要です。

「加速」ということを考えた場合には,重いほど不利だということです。

このように考えを進めるときの「重さ」のことを「慣性質量」というのです。

しかし,慣性質量が大きいことは,必ずしも不利とは言えません。

なぜなら,一定速度で走っているときには,慣性質量が大きい方が有利だからです。

慣性質量が大きいと,「動かしにくい」とも言えますが,「止まりにくい」とも言えるのです。
言葉をかえれば,「速さが変化しにくい」ということです。

たとえば,ほぼ同じ大きさのバレーボールとボーリングのボールを,同じ速さで床を転がしたら,どちらが早く止まるでしょうか。

これは,やってみるまでもなく,バレーボールの方が早く止まってしまうでしょう。大きさが同じなら,空気抵抗はほぼ同じですから,慣性質量の大きいボーリングのボールの方が止まりにくいわけです。

電車のようにとても重いものが,なかなか止まらないのもこういう理由によります。


【高速巡航と慣性質量】

さて,ロードバイクで30km/h 巡航するとします。

このとき,もし,空気抵抗と路面とのまさつ,そのほかの機械的なまさつがまったくなければ,いったん30km/h まで加速したら,あとはこがなくても慣性でそのまま巡航できるはずです。

しかし,現実にはそんなわけにはいきません。空気抵抗があるからです。

空気の抵抗力が働くことで,速度は少しずつ下がっていきます。そこで,ライダーは,空気の抵抗力と同じだけの力を加えれば,30km/h を維持することができるのです。

ここで,空気の立場に立ってみましょう。

空気の立場に立ってみると,自転車の速度維持をじゃまする際に,慣性質量が大きいヤツほど,じゃましてもなかなか速度を下げられないのです。

ライダーの立場に立てば,慣性質量が大きいほど,空気の抵抗力の影響を受けにくいことになるのです。

つまり,体重+バイクの質量が大きい方が,ライダーはより小さな力で30km/h を維持できるのです。

130404.jpg



ただし,これは平地限定,定速巡航時の話です。

上り坂では,重いのは当然不利です。

また,急加速しようとすると,慣性質量の大きさは不利になります。そのままの速さを維持しようとする性質が大きいからです。

また,同様に,急減速したい場合にも不利です。

それでも,急加速,急減速の少ない走り方で,平坦に近い道を長時間走り続ける場合には,慣性質量の大きさはエネルギー節約という観点から大きなアドバンテージとなるのです。

慣性質量の大きな鉄道や大型船は燃費の良いことで知られています。

体の大きなライダーは,長距離ライドに向いているとも言えるわけです。

また,いわゆる「列車」(数人のライダーが車間距離を詰めて走行する状態)では,空気抵抗が小さくなる(先頭のライダーでさえ!)と同時に,擬似的に慣性質量が大きくなるために,高速巡航に必要な力はかなり小さくなることが知られています。


【慣性の法則をあてはめて考える】

慣性というものは哲学的なおもしろさがあるものです。

たとえば,人の生き方にも似たことがあります。

ロードバイクにしばらく乗れないでいると,どんどん力が落ちていくようで,心配になることがあります。

そんなときにも,「大丈夫,今まで乗ってきた慣性があるんだから,しばらくこがないでも,そのままの速さはある程度維持できる,心配ないさ」などと思えます。

「完全に止まってしまうと,なかなか動かすのはたいへんだぞ」とも言えますけどね。

仕事や自分の生き方になぞらえて考えるのもおもしろいことです。

逆境に向かうときには,仲間と組んで「列車」を作り,慣性質量を大きくすれば,抵抗勢力の効果を弱めることも可能です。

大きなプロジェクトは,慣性質量が大きいです。そこで,動かし始めるのがたいへんですが,いったん動き始めると,なかなか止めるのが難しいのです。

ロードバイクの趣味も,あれを買い,これを買い,人とつながり,イベントに参加する…というぐあいに,かかえるものが増えていくと,慣性質量が大きくなっていきます。そうなると,なかなか止められない!

今の自分です(笑)




次は,タイヤ,ホイールと慣性の関係について書いてみようと思います。
回転するものの慣性は,少し別の要素が関わってきます。

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Comments 12

KTM  

タイトル

うわ!勉強になる!
私は常に個人で仕事をしているため大きなチカラには弱く
すぐに停止してしまいます
この先も列車を組むような仕事の仕方にはならないでしょうから
軽さを活かした仕事の仕方で強く生きていかねば!
と考えさせられてしまいました(^_^;)
でも人生は慣性(惰性)のチカラで過ごしたくはないものですね!
頑張ろう!

2013/04/05 (Fri) 06:00 | EDIT | REPLY |   

ayu  

"慣性力"、役に立つこともあるし、邪魔なときもありますよね。
新しい年度も始まりましたが、惰性(慣性)に流されないように、頑張りたいと思います。
今度、行ったことのないルート、走りましょう(^_^)v

2013/04/05 (Fri) 06:55 | EDIT | REPLY |   

riki  

KTM様

なるほど,KTMさんのフットワークの軽さは,そういうところからも来ているんですね。
哲学的です。
ヒルクライマーにはぴったり!

2013/04/05 (Fri) 07:30 | EDIT | REPLY |   

riki  

ayu 様

新しい年度を迎えると,どうしても今までの自分のやり方のまま行こうとします。
そんなときは,慣性に抗うために,けっこう大きな力が必要ですよね。
行ったことのないルート,魅力的です。
こんど,連れて行ってください。

2013/04/05 (Fri) 07:32 | EDIT | REPLY |   

おばさん  

タイトル

理科から哲学まで…こんな風に物事を捉えた事が無かったので とても 勉強になりますね。
次回の ホイールと慣性…楽しみな様な 物欲が頭をもたげそうで 怖い様な…f^_^;)

2013/04/05 (Fri) 09:06 | EDIT | REPLY |   

matz  

タイトル

雨宿りして
一人だと「止めようかな」と思うのと二人なら「行きましょうか」みたいな。

実は慣性と空気抵抗と回転体で仕事してます。
勉強になります、次回も楽しみです。

2013/04/05 (Fri) 10:07 | EDIT | REPLY |   

まっさん  

タイトル

こんにちは。

先生!今回も素晴らしく面白い授業でした^^。
学生の頃物理ってホントに苦手だったのですが、こうやって自分の体験(感覚)と一緒になって物理的な話を紐解くとすっと入っていきますね。

何だか次のブルベはほぼ平地で高速巡航向けなので、敢えて荷物を重くしてやろうか、とさえ思えてきます。

次の授業も楽しみです^^。

ではヽ(´▽`)/

2013/04/05 (Fri) 10:43 | EDIT | REPLY |   

riki  

おばさん様

科学はもともと「自然哲学」と呼ばれていたものですからね。
哲学がないと,勉強はおもしろくありません。

物欲を刺激するような内容にはならないと思いますが…。
ひょっとしたら…。

2013/04/05 (Fri) 12:54 | EDIT | REPLY |   

riki  

matz 様

matz さん,そういう仕事ですか。専門家ですね。
釈迦に説法で,すみません。
まちがいがあったら,指摘してください。

二人,三人と仲間が増えると,いきおいが違ってきますよね。

2013/04/05 (Fri) 12:57 | EDIT | REPLY |   

riki  

まっさん様

ありがとうございます!

次のブルベはおもいきり重装備でいかがでしょう(笑)
信号でのストップアンドゴーがなければ,がんがん進みますよ~。

2013/04/05 (Fri) 13:03 | EDIT | REPLY |   

maa  

タイトル

こんにちは!
「riki学講座」今回も凄く勉強になりました。
私は長距離向きのようですね。根本的にエンジン強化は最重要課題ですが、もともと遠くへ行きたい派なのでとりあえずは嬉しい結果です。(^^)
今回(1)ということは次回もありますね? 楽しみにしております。

2013/04/05 (Fri) 17:27 | EDIT | REPLY |   

riki  

maa 様

エンジン強化 ── なかなかこれがきびしい課題ですよね。
エンジンとは,筋肉なのか,心肺機能なのか,ミトコンドリアの数?
それを,どうすれば,効率的に鍛えられるのか。
素人にはむずかしい課題です。

まあ,難しいこと抜きにして,とりあえず,楽しく走る!
これですね。

2013/04/05 (Fri) 18:40 | EDIT | REPLY |   

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