大平街道 すてきな峠道



飯田峠を越えて,大平宿に入り,お昼休憩をすることにした。

一軒だけ営業しているお茶屋さんは,なつかしい昔の造り。

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家の中の薄暗さに気分が落ち着く。

黒光りしている床,柱,梁。



玄関脇のお風呂場の焚き口からは,独特の匂いの煙が流れ出てきて,薪のはじける音が聞こえていた。

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ここは,宿としても利用できるし,この五右衛門風呂を使わせてもらうこともできるそうだ。



勝手口横にある,川の流れを引く三段の水槽にはキュウリが冷やしてあった。

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ダイちゃんが,「うまそうだな~」 とつぶやく。



この水で手と顔を洗わせてもらう。

すきっと冷たい水が,汗まみれの顔をさっぱりさせてくれる。

生き返る感じ。



掛け軸のかかったお座敷がよかった。

縁側がある。

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山の空気が静かに入り込んできて,何とも言えず爽やかだ。

つーとヤンマが一匹迷い込んできた。

黙って座っているだけでも気持ちがいい。



おばちゃんが,とてもていねいにお茶を入れてくれた。

茶碗を湯で温めつつ,湯の温度を下げる。

その湯を急須に注ぎ,ていねいに少しずつ分けて茶碗に注ぎ入れる。

何気ない所作だが,美しい。



高級なお茶ではないけれど,旨味がよく出ていた。

ぬるめのお湯で入れるお茶は,優しい味がする。



お客さんにお茶を出すということが,昔は大切なもてなしだったことを思い出した。

子どものころはそうだった。

母親がそうしていた。



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ぼくは五平餅を2本いただいた。

これも美味かったけれど,小鉢に入っていた夏野菜とジャガイモの煮付けが最高に美味かった。





こんな宿に仲間と泊まって,合宿のように楽しむのもありだろう。

峠を走る練習,妻籠や馬篭の宿場町を楽しむのもいい。

峠を汗だくで登ってきて,ここでひとっ風呂浴びる。

うまい蕎麦をいただく。

そして,爽やかな風の入る縁側でちょいと昼寝。

さあ,もうひとっ走りするか。

そんなライドを夢見たくなる。




おっと,ゆっくりしすぎた。

すっかり根の生えた脚を畳から引っこ抜いて,シューズを履く。



さあ,もどろうかと,元来た道の方向にバイクを向けると,

路くんとダイちゃんのバイクは反対側を向いている。

あれ?



どうやら,もう一つ先の峠も登るようだ。

この大平街道をもう少し先へ走ると,こんどは大平峠がある。



また,走り始める。

峠道は秋の風情が漂い始めている。

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上り詰めたところには雰囲気のあるトンネルがあった。

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雪よけ用のトンネルだろう。

コンクリートの筒が置いてある,といった感じだ。

それでも,できてからかなりの時間がたっているのだろう。



風雪に耐えてきた時間が閉じ込められている。

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ピークを越えて,ここからは森の中を旧中山道まで下る。



わかっていたことだけれど,この日のコースは同じ道を往復するコース。

つまり,下った分だけ登らないと帰れない。




長い下りだった。



登り返すことがわかっていたので,早く下りが終わって欲しいと願ったが,これが全然終わらない。

あとで調べたら,この下りは 16km もあった!



ダイちゃんがゆっくり下ってくれるので,それに合わせて下った。




長い時間をかけて旧中山道まで下ってきた。

ここからは,1km ちょっとで妻籠宿まで行ける。

馬篭宿までは,5~6km。

しかし,お昼過ぎから出発したので,妻籠や馬篭に行く時間はない。



ふとわいてくる疑問。

何のためにここまで下ってきたのか。

その答えはひとつ。

「登り返すため」(笑)


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ぼくが不満らしきことを口にしそうになったら,路くんがすかさず言った。

「下りと登りでは道の表情がちがいますよ」

「こういう道は,それを楽しまなきゃ」

意味深な笑みを浮かべて,路くんがそう言った。



ほう~。

なるほど。

おっしゃるとおりですね。



ところが,

さあ,登り返そうかという時,路くんの口から出たのは驚愕のひとこと。

「ダイちゃん,思いっきり逃げて。追うから」



え? 道の表情を楽しむんじゃないの?



先ほどの言葉は何だったのか。

その判断は,賢明なる読者のみなさんにお任せしよう。



そしてダイちゃんは,その言葉通り,猛烈な勢いで森の中へ消えていった。

そのしばらくあとから,路くんが,これまたすごい勢いでぼくを抜いていったのは言うまでもない。






まあ,当然のこととして,一人旅での登り 16km が始まった。





古い峠道はすてきな瞬間が次々と訪れる。

杉が植えられたところに入ると,すうっと辺りが暗くなり,あたりの彩度が下がる。

独特の世界だ。

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植生が変わると,森の表情もがらりと変わる。



雑木林に入れば,緑が明るくなる。

古い道だけに,ところどころに長い時間を生きてきた木々が現れる。
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すっとまっすぐに伸びたカエデの大木。

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雪の重みに耐えてきた過去を幹に刻み込んでいる木もあった。

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こういうものが目に入ると,思わずブレーキに手がかかる。

しばらくの間見上げていると,立ち去りがたい気持ちにさせられる。



どこまでも緑のトンネルが続く。

一人で登り続ける。

ふと思いついて,自撮りをしてみる。

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よかった。

デジカメの液晶に自分が映った。

自分は現実の存在として,この道の上にいる。




やがて,待ち合わせをしていた峠の茶屋に着いた。

昨年までは営業していたらしいが,今年から無期限の休業に入ったようだ。

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残念だ。

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 (営業していたころの写真)



茶屋の横には展望台がある。

それほど見晴らしがよい訳ではなかったが,この大平街道では唯一の展望が開ける場所ではある。

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さあ,もうひと登り。

まだ空は明るいが,森の峠道は少しずつ暗くなってきている。

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しまった。

車の中にフロントライトを忘れてきた。

「備えよつねに」 が SHOROs のモットーであるはずなのに。

もしも,一人だったらたいへんだ。

暗い峠道で自分の存在を対向車に知らせる手立てがないということは,とても危険なことだ。



そんなぼくをダイちゃんがサポートしてくれる。

ぼくが少し遅れると,待っていてくれて,いっしょに走ってくれた。

何度も待たせてしまった。

そのたびに待っていてくれる。

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「三味線弾き」 とか,「ゴールラインの魔術師」 などと揶揄されることもある男の真実が,ここにある。

住友さんには厳しいが (笑),年寄りには優しいのだ。



今回,またしても下りでダイちゃんに訪れたパンクは,そういう意味でまったく不当だ。

不運としか言いようがない。

この峠道は路面がきれいで落石も少なかったが,不幸にしてとがった石を踏んだらしく,サイドがざっくり切れていた。



路くんが心配して,かなりの距離を登り返してきてくれた。

路くんもいい人だ。

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最後に,猿庫 (猿倉) の泉 という名水がわき出るところに寄った。

激坂の上にあったが,飯田の町を見下ろすと南アルプス方面の山の端が夕方の色に染まっていた。

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駐車場に戻るころには,夕闇がすぐそこまで来ていた。

この日も一日よく遊んだ。

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乗鞍は残念だったが,大平街道の峠道はすてきだった。



いっしょに走ってくれた路くん,ダイちゃん,ありがとう。



またね!




写真はこちらにも。





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Comments 14

ダイズ  

タイトル

リキさん、今回もありがとうございました!

あの追いかけっこはホントにキツかったです(笑)
しかも後から半分冗談だったと聞いて…


それにしても「ゴールラインの魔術師」って(笑)

そんなにホメてもナニも出ませんよ?

2015/08/26 (Wed) 23:55 | EDIT | REPLY |   

KOU  

リキさん、こんにちは。
妻籠、馬籠と聞くと若い頃ドライブでよく行ったな…
そんなところを自転車で行くなんて夢の様です。
でも、坂ばかりですよね…(~_~;)

2015/08/27 (Thu) 00:03 | EDIT | REPLY |   

カンパチ  

沁みるな~・・・

 リキさん、おはようございます。
またまた、イイ道ですね。

釣鐘人参の青が心に沁みますね。

あ、あと、お二人の優しさも・・・

2015/08/27 (Thu) 09:27 | EDIT | REPLY |   

たかじん  

タイトル

やはり紳士のリキさんは、物事を良い方に解釈されますね♪
僕なんて、ダイちゃんがパンクするのは日頃の行いが・・とか、路くんが引き返してきたのは単に登り足りなかっただけでは・・なんて邪推してしまいました。
きっとあの二人にも少しぐらいは優しさというものがあったんでしょうね。
そう思いたいし、そう願うことことにします。

2015/08/27 (Thu) 10:00 | EDIT | REPLY |   

路  

タイトル

ボクはまったく気付かなかったのですが、
お茶のおもてなしに気付いたリキさんはさすがですね〜。
ボクももう少し気遣いできる人間になりたいものです...

やさしいひとを
優しいと思える
あなたの
こころが
やさしい

みちを

2015/08/27 (Thu) 10:15 | EDIT | REPLY |   

Fosetta  

タイトル

落ち着いた雰囲気のお座敷で、丁寧入れられたお茶のおもてなし、最高に贅沢な一時を体験された様ですね。ちょっと羨ましですw

2015/08/27 (Thu) 10:56 | EDIT | REPLY |   

リキ  

ダイズ様

ダイちゃん,こんばんは。

ああいう追かけっこみたいなことをしているからこそ,強くなるんですよね。
それがぼくには欠けているところです。

これくらい褒めておけば何か出ますよね。
お兄さんからもスズカのお礼がそろそろ届くころだし(笑)

2015/08/27 (Thu) 20:10 | EDIT | REPLY |   

リキ  

KOU 様

KOU さん,こんばんは。

はい,坂ばかりです。
景色がよくて,森がきれいなところは,坂ばかりです。ハイ(笑)

2015/08/27 (Thu) 20:11 | EDIT | REPLY |   

リキ  

カンパチ様

カンパチさん,こんばんは。

元気よく咲く花もいいですけれど,うつむいて咲く花もすてきです。
カンパチさんとゆっくり話しながらこんな道を走ったら楽しいだろうなあと思います。
9月が楽しみです。

2015/08/27 (Thu) 20:16 | EDIT | REPLY |   

リキ  

たかじん様

たかじんさん,こんばんは。

アハハ,たしかにその邪推は「邪」じゃなくて,万人の認める確かな見方かもしれません。
それでも,その中にある優しさや真実を描き出すのが,わたくしのブログであります(キリッ)

ま,アカン人という見方はまったくもって正しいと思います。

2015/08/27 (Thu) 20:23 | EDIT | REPLY |   

リキ  

路 様

路くん,こんばんは。

すばらしい言葉ですね。
「みちを」さんって,有名な方ですよね!
たしか,ぼくの本棚にも2~3冊ありますよ(笑)

2015/08/27 (Thu) 20:26 | EDIT | REPLY |   

リキ  

Fosetta 様

Fosetta さん,こんばんは。

ふつうの観光地では,こうはいきませんよね。
道もお茶屋さんも,圧倒的に人が少ないのがよかったです。
とても一人で来る気にはなれないところですが(笑)

2015/08/27 (Thu) 20:28 | EDIT | REPLY |   

ミニベロ好き  

いつも楽しませていただいてます。
瀬戸設楽線の設楽への下りが素晴らしいですよ。
細くて綺麗な山道に古いトンネルにと、たぶんリキ様が好きなものが詰まってます。
設楽からの帰りが大変ですが、もし走ったことがなければ試してみてください。

2015/09/05 (Sat) 18:08 | EDIT | REPLY |   

リキ  

ミニベロ好き様

こんばんは!
いつも読んでいただいているとのこと,ありがとうございます!

瀬戸設楽線ですか。それは楽しそうですね。
まずは近くまでトランポして試してみます。
いい情報をありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。

2015/09/05 (Sat) 22:02 | EDIT | REPLY |   

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