走行の力学 (1) 仕事量 ~ 蛇行は得か損か



久しぶりにロードバイクの理科的考察。



パワーメーター,パワートレーニング…。

自転車のトレーニングで 「パワー」 という言葉を聞いたことのある人も多いと思います。

「パワー」 とは何者か。

そんなことをまとめてみたいと思います。

ただし,相当ややこしい議論になるので,少しずつ。

第1話は蛇行の話。



きつい坂道で,「もうダメだ」というとき,蛇行して登るという技があります。これは,まっすぐに登るより楽になりますが,それは 「得をしている」 と言えるのでしょうか。




物理学上では 「仕事量」 という概念があります。

これは,「 力の大きさ × 距離 」で表される量です。

「仕事のエネルギー」 と呼ぶこともあります。

運ぶものが重いほど,多くのエネルギーが必要です。

運ぶ距離が長いほど,多くのエネルギーが必要です。



たとえば,体重とバイクの重さを合わせて 70kg で,高度差 200m の峠のピークまで登るとします。

このときの仕事量は,70kgf × 200m = 14000kgf・m となります。

( 70kgf は,70kg のものを持ち上げるのに必要な力 )


ここで,ピークまで道が,

14_1003_01.jpg


A:直線的にぐいぐい登っていく道

B:うねうねとつづら折りで登っていく道 ( 下り区間なし )

の二つがあるとします。



この場合,Aは距離が短く,Bは長いですが,どちらの道を通っても,最終的に高度差 200m を登ることは同じです。

そこで,それぞれの道で登頂するのに必要な仕事量(エネルギー)は,直線的に登っても,うねうねと登っても,14000kgf・m で同じなのです。


しかし,Aは,直線的に登りますから,走る道のりは短いですが,勾配が急なので,登るためには大きな力が必要です。

一方,Bは,うねうねと登るので,走る道のりは長くなりますが,勾配はゆるやかですから,小さな力で登れます。


つまり,

道のり 短 → 力 大

道のり 長 → 力 小

両者の積はつねに一定なのです。


言い方を変えれば,どちらの道を通っても体重と標高差は同じですから,必要なエネルギー量は同じです。

距離で稼ぐか,力で稼ぐか,ということです。


これは,「ケイデンス」 と 「ギアの重さ」 の関係と同じです。

同じ速度で走るなら,

ケイデンス小 → 重いギア

ケイデンス大 → 軽いギア

となります。

重いギア (力) で稼ぐか,ケイデンス (ペダルを回す距離) で稼ぐか,ということです。



冒頭の問いかけの答えは,ごく普通の答えです。

蛇行すれば,小さい力で登れますが,長い距離を走ることが必要です。
直登すれば,短い距離ですみますが,登るのに大きな力が必要です。

両者の仕事量は同じですから,ひとくくりにどちらが損をしているとも,得をしているとも言えません。

仕事量が同じなら,必要なエネルギーは同じですがら,力に任せてぐいぐい行くか,力を少し抜いて遠回りするか,好みに合わせて選択すればいいのです。

ごく普通の答えで申し訳ありませんが,「パワー」 の概念を理解するための基礎が 「仕事量」 の概念ですので,あえて書きました。




仕事や人生も同じですね。

大きな力で直線的に勝負するか,やんわりと遠回り的にゴールを目指すか

仕事量が同じなら,そのときどきで,仕事内容に合ったアプローチが考えられます。

また,今までの自分では選択しなかった新しいアプローチを試みるのも,おもしろいかもしれません。


よく思います。「力学は哲学だ」 と。




今回は,距離 と 力 だけを取り上げましたが,実際にはここに 「時間」 という要素が関わってきます。

時間の要素が入ってくると,「仕事量」 が,「パワー」 の概念につながります。

その話は,また次回に。





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Comments 14

ダイズ  

タイトル

リキさんのこのシリーズ大好きです。

最近なかったので次はいつかな~なんて思ってました(笑)

理論に基づき力学を理解することで、今まで漠然と捉えていたことが明確に見えてくる…そしてそこに感覚を融合させると本当に楽しいです。

いつも参考にさせてもらってますので、よろしくお願いします。

2014/10/03 (Fri) 20:24 | EDIT | REPLY |   

チャップリン  

タイトル

リキさん、こんばんは!

う~ん、?????ナンのこっちゃ!あかん熱がでてきた!

お爺ちゃんには難しい、とりあえず走っちゃえばいいんですか?

2014/10/03 (Fri) 20:57 | EDIT | REPLY |   

おばさん  

タイトル

人生…を考えますね(^^;;

2014/10/03 (Fri) 22:41 | EDIT | REPLY |   

shiga  

タイトル

キツイ高強度は疲れます。 ε-(;ーωーA
のんびり低強度はいくらでも上れます。(≧▽≦)ノ

2014/10/04 (Sat) 11:30 | EDIT | REPLY |   

リキ  

ダイズ様

ありがとうございます。
そう言っていただけると,また次を書く意欲になります。

感覚が結びつくことで,理屈も生き生きとしてきます。
そのあたりを理解されていることが,ダイズさんすごいです!

2014/10/05 (Sun) 08:32 | EDIT | REPLY |   

リキ  

チャップリン様

チャップリンさん おはようございます!

すみません。
とりあえず,走ってください,登ってください(笑)

2014/10/05 (Sun) 08:34 | EDIT | REPLY |   

リキ  

おねえさん様

そうなんです。
科学って,けっこう人間くさいです。

2014/10/05 (Sun) 08:34 | EDIT | REPLY |   

リキ  

shiga 様

のんびり低強度はいくらでも上れます…確かに!

でも,時にはぐいっと行かなきゃ,おもしろくないですからね。
人生もね。

2014/10/05 (Sun) 08:36 | EDIT | REPLY |   

2号クン  

タイトル

はじめまして。エンジニアですが、今回のお題に対して若干勘違いしているようなので補足させて下さい。

今回のお題である「直線も蛇行も仕事量が同じ」ですが、70kgを200m垂直に持ち上げる時の仕事量14000kgf・mは正しいのですが、イメージとしては、エレベーターで自転車を200m持ち上げる感じです。なので、14000kgf・mは、エレベーターのモーターが必要な仕事量です。

自転車は構造上、垂直に走れません。(垂直に運動可能なら14000kgfで正解)
よって、自走して高度を得る手段として、斜面を使って登る事になります。

ここで横軸Xを自転車の水平移動距離、縦軸Yを自転車の移動高度と考えた場合、
200mに到達水平距離をLmとすると、原点(0,0)終着点(L,200)を直線で結んだ時の斜面の角度が平均勾配θになります。平均勾配が10%なら水平方向に2km、5%なら4km移動しばければならず、Lが長くなれば物理的に水平方向の仕事量も多く発生しています。
つづら折りが長くなればLが長くなり、仕事量も増えます。グラフの三角形の面積が大きくなればエネルギーは増加しますので。

感覚的に合っていると錯覚しているには、たぶん、仕事量と出力(パワー)をごっちゃに考えてしまっていると思われます。
①同じ道をアウター・トップまたはインナー・ローのどちらで登っても仕事量は同じ
②スタートとゴールが一緒でも直線とつづら折りの2コースがあれば、どんな方法で登ろうが仕事量をみれば、つづら折りの方が多い
たぶん、①の意味合いで今回の記事を書かれたと推測されますが…
ちなみに、仕事量が多いつづら折りの方が楽なのは別の理屈なので…

長文失礼しました。

2014/10/05 (Sun) 15:21 | EDIT | REPLY |   

リキ  

Re: タイトル

ご指摘ありがとうございます。
すみません,シロート物理学です(笑)

水平方向の仕事量は,ヒルクライムのように速度が遅い場合,支配的である空気抵抗を無視してもよいかと思いました。また,最初の加速度,曲がるための加速度,転がり抵抗など様々に発生する仕事量も,垂直方向と比べたら無視できるのではないかと判断しました。

そのあたりが現実的に無視できない量であるかどうかの判断が間違っているかもしれません。
失礼しました。

2014/10/05 (Sun) 18:19 | EDIT | REPLY |   

バイソン  

リキさんもご存知の坂が苦手な僕ですが

まさに ビワイチの前にトリガタワという峠の旧道で こんなかんじでした(笑)

最初はしんどいので最短コースを狙って みるも 斜度がキツくなり 踏めなくなった時に蛇行しまくりでした(笑)

ちょっと蛇行で下り気味に移動して勢いつけて斜めに登るの 繰り返しでしたね(/。\)

2014/10/05 (Sun) 21:53 | EDIT | REPLY |   

リキ  

バイソン様

ぼくも,蛇行にはお世話になっていますよ。
最近は,ペダリングとダンシングが少し上達したのか,出番が少なくなりました。
バイソンさんは,力が強いので,軽量化したらあっという間に楽になりますよ(笑)

2014/10/06 (Mon) 09:44 | EDIT | REPLY |   

2号クン  

タイトル

すみません、リキさんが間違えている訳でなく、リキさんの前提条件は、自転車が動く時に
摺動抵抗(各フリクション、路面ミュー、空気抵抗、etc)がゼロの時のみに成立する話かと思います。
それは、現実世界では成立してないので、通常は水平方向も考慮するのが一般的ということです。

現実の世界では、物体を等速度運動で動かし続けるには、上記の何かしらの摺動抵抗分の荷重F(またはエネルギー)を加え続けないといけません。
自転車の場合は、ペダルを回さないと減速します。この自然に発生する減速度をαとします。
(厳密には、αは自転車の速度に依存する変数ですが、ここは便宜上、定数で考えます。)
たとえば、水平で時速10kmで走り続けるにも軽い踏力で、ペダルを回し続けますよね?
それは、自転車(ライダー含む)の質量x減速度α=Fを加え続けないと、減速してしまうためです。

ここで、
・自転車とライダーの質量はM
・重力加速度をg
・山の頂上までの高さをH
・頂上まで登るまでの水平距離をL
・水平方向の自転車の減速度をα
・頂上まで登る質量Mの仕事量J
とすると、

J=√((M・g・H)^2+(M・α・L)^2)
となります。

数式見てわかりますが、αかLがゼロでない限り、J=M・g・H=14000kgf・mになりません。

1)L=0の場合は、私が最初にイメージと説明したエレベーターで昇るか自転車が垂直で移動する場合。
2)α=0の場合は、全てのフリクションが存在しない場合です。
2)はあり得ないので、フリクションのある斜面を登る以上、Lの長さで仕事量Jが増えます。

極端な例ですが、200mの高さを勾配0.1%の坂で登り続けたら、水平距離200kmの移動が必要になります。
仮に自転車の自然減速度を0.01gとすると、水平分の仕事量だけでも、
70kg x 0.01 x 9.8 x 200000m =1372kJの仕事量が発生します。
これに垂直分の仕事量を合成させたものが坂を登る仕事量となります。
(ほぼ水平を200km走るだけでも大変ですよね。笑)

実際の減速度αは、速度の二乗関数的に変化するので、上記のような単純でありませんが、
つづら折りと直線で仕事量が異なる理屈を理解して頂けたのではないかと思います。

あと、上式見ればわかりますが、H=0=水平の時は水平移動時の仕事量となります。

またまた長文失礼しました。

2014/10/08 (Wed) 12:47 | EDIT | REPLY |   

リキ  

2号クン 様

二度にわたり,専門的な立場からのご助言,ありがとうございます!
勉強になります。

・ 蛇行するほどの斜度なら速度もそれほどではなく,空気抵抗も無視できるだろう
・ 斜行したとしても,45度くらいがせいぜいで,それなら水平距離も1.2倍くらいにしかならないので水平成分は無視できるだろう

などという甘い仮定の下の大ざっばな議論です。
シロートの考えと笑ってくださればと思います。
ありがとうございました。

2014/10/08 (Wed) 21:45 | EDIT | REPLY |   

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