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理想と憧れと ── アルゴンの話

Posted by リキ on 23.2016 ロードバイクの理科的考察   12 comments   0 trackback


自転車雑誌の表紙に載っていたロードバイク。

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ダウンチューブに大きく 「ARGON 18」 と書かれている。

おやおや,おもしろい名前のメーカーだと思った。




アルゴンと言えば,原子番号 18 の不活性ガスだ。

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どうして原子の名前なんかをメーカー名としたのかはわからないが,アルゴンを選んだのはおもしろい。



ほとんどの原子は,他の原子と結びついてこの世の中に存在している。


たとえば酸素なら,CO2(二酸化炭素)だったり,H2O(水)だったり,他の原子と結びついて,さまざまな物質を形成している。

しかし,酸素原子だけで存在することはない。

酸素原子2つで 「O2 (オーツ-)」 という形はとるが,酸素原子1つで存在することは絶対にない。

そのほかの原子だってそうだ。

水素,窒素,炭素,鉄,アルミニウム …,どれも,その原子1つでこの世に存在することはないのだ。




ところが,アルゴンの仲間だけは,原子1つでこの世に存在する。

それどころか,他の原子と結びつくことがない。

アルゴン原子同士でさえ結びつかない。

きわめてまれな独立孤高の存在である。



ゆえに,「希ガス」 と呼ばれる。

また,「貴ガス」(noble gas) とも呼ばれる。

noble = 高貴な存在なのだ。




他の原子は,その構造上,他の原子と結びつくことで安定するが,

アルゴンの仲間だけは,電子配列が理想型で,それひとつで完全に安定している。

だから,他者と結びつく必要がない。



他の原子は,アルゴンの仲間のような理想型と比べると,いくつか電子が足りなかったり,余っていたりする。

そこで,その過不足を他の原子と融通し合い,理想型に持ち込む。

アルゴンの仲間と同じ形になりたいがために,他の原子と結びつくのだ。



いつも,原子たちは理想型を求めている。

つまり,アルゴンの仲間は 「理想」 であり,「あこがれ」 なのだ。




独立,高貴,理想,あこがれ ── そんなイメージを,このメーカーも思い描いたのだろうか。

だとしたら,すばらしいセンスだと思う。



ちなみに,このメーカーのバイクには,そのほかにも原子の名前を冠したモデルがある。

ニトロジェン(窒素),ガリウム,クリプトン。

これは,クリプトン。

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クリプトンは貴ガスだ。






そういえば,リドレーというメーカーのバイクに 「ヘリウム」 というモデルがある。

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ヘリウムも,貴ガスだ。



このモデルは 「究極の軽量」 を謳っている。

ヘリウムは原子番号 2 のとても軽い原子だ。

風船に入れると,空高く登っていく。

さらに軽い原子番号 1 の水素を入れるという手もあるが,水素は少し危険なヤツだ。

だから,安全で軽量なヘリウムが風船にも使われる。




ぼくの友人も,このヘリウムというロードバイクに乗っている。

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「高貴」 で 「孤高の存在」 ともいえる人物だ。

そして,ヘリウムらしく 「軽い」。

もちろん,人間が軽いと言っているのではない。

ひょうひょうとして軽やかに生きているという意味である。

そしてこの人物は,そう,みんなの 「あこがれ」 だ。





これは,きっちさん からもらった分子模型ストラップ。

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水分子 (H2O) と,アンモニウムイオン。

原子同士ががっちりと組み合わさっている。



ところが,アルゴンの仲間 =希ガス は独立している。

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(紫がアルゴン,橙がヘリウム,桃がネオン)

1個の原子なので,ただの球だ。

分子模型としてはつまらない (笑)

しかし,これこそが 「理想」 であり,「あこがれ」 なのだ。





きっちさんが,「リキさん,こういうの好きでしょ,プレゼントするからどれか一つ選んで」

と言ってくれたとき,迷わずぼくは希ガスの模型を選んだ。

noble gas = 貴ガス,という言葉が好きだったからだ。

きっちさんが,「一番地味なのを選んだね。もう一つどうぞ」

と言ってくれたほどだ。



ぼくのような淋しがり屋は,「孤高」 などという言葉からは縁遠い。

それでも,このストラップを見て

「理想を高く掲げていよう」

と思ったりするのだ。









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ペダリング効率のこと

Posted by リキ on 10.2015 ロードバイクの理科的考察   10 comments   0 trackback


先日,録画がたまっていた NHK の『チャリダー』 を見ていたら,猪野学さんと,筧五郎さんが競輪学校の測定室で,さまざまな測定をしているのが紹介されていました。



そのうちのひとつに,「ペダリング効率」 の測定がありました。


パイオニアの高価なペダリングモニターなら測定できますが,ふつうのサイコンやパワーメーターでは測定できません。


でも,「ペダリング効率」 の理屈はわかります。

それには,「トルク」 が関係しています。




自転車はペダルに力を加えることで前に進みます。

ペダルを踏んだ力がトルクを生み出し,そのトルクが後輪を回します。




ここで肝心なのが,力とトルクのちがいです。

「力 = トルク」 のように誤解されることも多いのですが,別のものです。


力は,単に,ペダルに加えた力の大きさです。


トルクは,ペダルに加えた力の大きさに,「支点からの距離」 をかけ算したものです。


図1のように,「F」 という力でペダルを踏んだ場合,それに支点からの距離である 「r」 をかけた値が 「トルク」 です。

01ペダリング


ここで言う 「支点からの距離」 はクランクの長さと同じではありません。


たとえば,図1の後,図2のようにまっすぐ下にペダルを踏み続けると,「支点からの距離」 は図のように変化していきます。

02ペダリング


支点からの距離は,入力方向と垂直の関係にあります。

(赤の線と青の線はいつも垂直になる)


クランクが5時の位置にある時 (図2),まっすぐ下に踏むと,支点からの距離は図1の場合に比べて 54%になってしまいます。

力が同じなら,トルクの大きさは支点からの距離に比例しますから,トルクも 54%に減ってしまいます。


図3のように,さらに真下に踏み続けると,トルクは19%にまで減少します。

(6時の位置で真下に踏めば,トルクは 0%,つまり,全面的なムダ)



これが効率の悪いペダリングです。

真下に踏んで最大の効率が得られるのは,図1のように,クランクが3時の位置にある時だけです。




番組では,筧さんが,

「靴底についたガムをこそげ落とすようなペダリングを」

と説明していました。

よく聞く説明の仕方ですね。



これが,次の図4,図5です。

03ペダリング

ペダルへの入力方向がクランクに対していつも垂直になるようにすれば,効率は 100%です。


できるだけクランクが描く円弧に近い方向に入力することが,効率の高いペダリングをもたらします。



しかし,現実には非常に難しいので,よく言われるのは,

「2時から3時のあたりでクッと踏むだけにする」

「6時を過ぎたら,脚の重みを持ち上げるだけでいい」

などと,さまざまな表現で,無駄なペダリングをしないようなことが言われます。




ローラーを回している時は,ペダルへの入力方向を意識するようにしています。

ふだんから意識していないと,どうしても 真下に踏むペダリングをしてしまいがちです。



ぼくの場合,無意識的に回すようなペダリングをすることはまだできません。

とくに高い出力で回している時は難しいです。

それでも,入力方向を気にかけて回していると,高出力での練習が少し楽になってきます。

負荷の高さに負けてベダ踏みすると,4時から5時あたりのところで,スコンと踏みごたえがなくなるのを感じます。

力が効率よくトルクになっていない証拠です。



ぼくのように,もともと持っている力が小さい者は,効率をいつも意識していることが大切だと思っています。

今持っている力を最大限に活用できたらいいなと思うのです。




こういうことは,仕事でも同じです。

新しい仕事を始めたり,たいへんなプロジェクトを進めようとしたりする時,「力」 が必要になります。

しかし,その力を加える方向を読み誤ると,力を生かすことができません。


「やるぞ」 という気持ちはあっても,力が空回りすることはありますよね。





人によって微妙にちがうペダリング。

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ガシガシと力で稼ぐのもいい。 地道に回転で稼ぐのもいい。

冷静に効率で稼ぐのもいいけれど,時には効率無視でベタ踏みするのもおもしろい。


時と場合によって使い分け,その時々の思いとともにペダルを踏み込む。



ペダリングは人生だ。







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「信号からの発進が遅い」 の力学

Posted by リキ on 29.2015 ロードバイクの理科的考察   12 comments   0 trackback


仲間とライドに出たとき,信号待ちからのスタートで遅れてしまうことがよくあります。

前走者がスタートしてすぐにぼくもスタートするのですが,あっという間に間隔が開いてしまうのです。



原因は二つあります。

一つ目は,クリートをはめるのが下手なこと。

いつまでたっても上手になりません。

スタートした瞬間,パチンとはめる人はすごいと思います。


もう一つの理由は,加速力が小さいこと。

他の人がぐんぐん加速するのに,ぼくはジワ~ッとしか加速しないからです。



大きな加速度を得るためには,大きな力が必要です。

ニュートンの第2法則は,


  f = m × a

 ( f : 力, m = 質量, a = 加速度 )


と記述されます。


力と加速度は比例しますから,

「大きな力を加えれば,加速度は大きくなる」 のです。


また,逆のことも言えます。

「加速度を大きくすると,大きな力が加わる」

つまり,ぐいっと加速すると,筋肉や関節などにも大きな力が加わるのです。


以前,落車してダメージを受けた股関節の違和感が,最近少しずつ痛みに近くなってきているので,警戒しています。

グイッと加速すると大きな力が身体に加わって,ダメージが大きくなることが考えられます。

そこで,一気に加速するような場面はできるだけ減らそうと意識的に注意しています。

ぼくと同じように,膝関節や股関節などに心配の種をかかえる人は,加速度の大きさには気をつけた方がいいかもしれません。


加速度が大きくならないような踏み方にはちょっとしたコツがあります。

それは,イメージで言うと,

ガツン!とぶつけるように踏む ── 加速度が大きい (負担が大きい)

グゥウッと押し込むように踏む ── 加速度が小さい (体への負担が小さい)

力を入れ始めてからグイッと踏むまでの時間を少し長めにとるのです。





「力積 (りきせき)」 という考え方もあります。


  力積 = 力 × 時間


で表されます。

力積が大きくなると,速度の変化も大きくなります。


簡単に言えば,

「小さな力でも,力を加える時間を長くすれば,速度はどんどん大きくなる」

という意味です。



「小さな力しか出せないのなら,時間をかければいいじゃないか」

ということです。


加速度が小さくても時間をかけて加速していけば,必ず前走者には追いつきます。


力学においては,「時間」 という要素がとても大きな役割を果たすのです。


だから,スタートで出遅れたぼくは,一気に加速して追いつこうとせずに,時間をかけて少しずつ速度を上げていくことにしています。

そうすれば,筋肉や関節への負担がぐっと減るのです。

もちろん,いつもそういうわけにはいかないし,ぐいぐい加速する楽しさもありますから,時と場合によりけりですね。





信号からのスタートの問題で言えば,先頭の人よりも2番目の人の方がわずかに遅くスタートしますから,同じ加速度では追いつけません。

トレインを形成するためには (同じ速度に達するには),2番手の人は加速度を大きくするか,加速時間を長くする必要があります。

3番目,4番と後ろの順番になればなるほどスタート時の遅れが大きくなるので,加速度をより大きくするか,加速時間をより長くする必要があまりす。

つまり,トレイン形成を考えるなら,先頭がスタート直後にぐんぐん加速するするのは,後続の脚を削ることにつながるのです。

そこで先頭は,ゆっくり加速するか,スタート直後は定速走行しておいて,後続がスタートしてクリートをはめおわってから加速していく方が,スムーズなトレイン形成ができるはずです。




大きな加速度が大きな負担をもたらすのは,自転車に限りません。

お店だって,急にお客さんの数が増えたら対応にあたふたしてしまい,ほころびが出てしまいます。

しかし,少しずつ増えていく分には対応がスムーズに行くはずです。



乳酸の代謝もそのようになっているような気がします。

ヒルクライムで急激な加速をすると,一気に乳酸が増えます。

これをうまく処理できないと脚が終わってしまいます。

急激な乳酸増加に対処するのは難しいので,ヒルクライム序盤でがんばりすぎると脚の売り切れにつながりやすいのです。

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そこで,ヒルクライムではペースを一定に保つことが重要とされています。

少しずつ増加していく乳酸なら,代謝サイクルもスムーズに働くのではないでしょうか。

乳酸のたまる加速度が小さい方が,代謝サイクルにかかる負担も小さいわけです。



プロ選手や本格的にレースをする人は,レースが始まる前にローラーを回しています。

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あれも,体にかかる負荷増加の加速度を小さくするための方法,ということもできるのではないでしょうか。

何も準備していない段階で,一気にレース強度で運動すれば,体にかかる負荷の加速度は大きなものになるからです。



また,ライドの序盤では負荷を小さめに押さえておくのも大切な心がけになるでしょう。




年を取ると,体に優しい負荷のかけ方を心がける必要があるのです。

もちろん,若い人にも,故障を減らすための方法として知っておいてもらうのがいいと思います。


「加速度が大きいと,大きな力が加わる」

「負荷の急激な増大は,体への負担が大きい」







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「場」を提供する 触媒

Posted by リキ on 07.2015 ロードバイクの理科的考察   20 comments   0 trackback


きっち さんのブログに 「白金カイロ」 のことが紹介されていた。


子どものころからこのカイロは身近にあった。

燃料に使うベンジンという液体も,染み抜きに使ったりするので,以前はどこの家庭にもある身近なものだった。

子どもでも,ベンジンが引火しやすいものであることは当然のように知っていたので,白金カイロはベンジンを 「燃やして」 暖を取るものだと思っていた。

しかし,大人になってから白金の触媒 (しょくばい) 作用を知り,このカイロがベンジンをふつうに 「燃やして」 いるのではないことを知った。


きっちさんの記事を読んでいて,そんなことを思い出し,

ブログってこれなんだよな! と思った。

と,そんな話を書いてみたい。




触媒というのは,実におもしろいものだ。



たとえば,水 (H2O) は酸素と水素が化合した物質。

水分子は,酸素原子の両側に水素原子が1個ずつくっついている。

反応式にすると,こんな感じ。
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2個の水素分子と1個の酸素分子から,2個の水分子ができる。

しかし,単に酸素と水素をまぜただけで水ができるわけではない。

水素も酸素も,原子が2個ずつしっかりとくっつき合っているので,これらがバラバラになってから,水素と酸素がくっつき合うことが必要になる。



水素は爆発することで有名な気体だ。

菓子パンが入っている袋くらいの量なら危険はない。

酸素も水素も気体だから,この二つを袋の中に入れて封をする。

そして,ローソクの火にかざして点火する。

爆発が起きて大きな音がする。

そのときに,水素と酸素がくっついて,水ができる。



爆発は,次のようにして起こる。

点火されたところの水素と酸素の分子は,熱せられて高速で動き回り,衝突する。

その勢いで,酸素と水素がいったんバラされて結びつき,水分子ができる。

水ができる反応は,高いエネルギーを生み出すので,その熱でまた隣の分子が衝突して水ができる。

その連鎖反応が短時間のうちに一気に広がるのが爆発だ。


つまり,点火によって高い温度を作り,反応のきっかけにするわけだ。




しかし,触媒というのは,全く別の作用をする。

白金は触媒作用が強い。



白金の表面は,酸素や水素を吸着する。

ただ吸着するのでなく,2個ずつくっついた原子の結びつきをゆるいものにしたり,ばらばらにしたりする。
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この反応しやすくなる,「ゆるい状態」 を作るのが触媒の作用だ。

いったん,バラバラにされた酸素と水素の原子は反応しやすくなり,点火したわけではないのに,酸素と水素がくっついて水ができていく。

つまり,触媒というのは,反応しやすくなる場所を提供しているのだ。

触媒は,「出会いの場」 とも言えるだろう。




ブログというのは,ネット上の表現の場であるとともに,交流の場でもある。

そして,ネット上の交流が,現実の交流を生み出すこともある。



もともとぼくがロードバイクの仲間とつながるきっかけになったのは,ayu さんKTM さんのブログだった。

そこをきっかけに次々と出会いがあり,たった半年で十指に余る仲間ができた。

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今や,SHOROs の年忘れ走行会は50人を越える大所帯だ。

ブログ上での知り合いと 「初めまして」 と挨拶を交わすことができた。




2013年冬には,ぼくのブログから,群馬のサイクリストMさんと 「盆と年末」 にいっしょに走るつながりができた。

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2014年秋には,コギコギさんや住友輪業さんのブログつながりで,兵庫や大阪,島根にも仲間ができた。

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2015年正月には,KTM さんのブログで知り合った東京の suzuki さんといっしょに走る仲間ともつながった。

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まだブログ上でのつながりだけで,実際に出会っていない人も多い。

そんな人たちとの出会いがこれから先もあるのかと思うと,楽しみでならない。




ブログの存在は,見事に触媒の作用をしている。

人と人の出会いの場を提供しているのだから。



「ロードバイクに乗っている」 というだけで,相手に親近感を抱き,心の扉が開く。

「どこまで行かれるのですか」

と話が始まったり,

お互いの機材に目が行って,その話が始まったりする。


白金の表面上で,原子同士の結びつきがゆるくなって反応しやすくなっている状態と同じだ。

そういう意味では,ロードバイクというもの自体が触媒の作用をしていると言える。



ブログ上でコメントのやりとりをしているだけで,すでに知り合いのような気がしてくる。

現実に初めて出会ったときにも,初めてのような気がしない。

初対面の緊張感がなく,心が 「ゆるい状態」 になっているのだ。

見事な触媒作用!




今年も,新しい出会いがあるだろうと思うと,ワクワクしてくる。

もちろん,これまで仲良くしてもらっている仲間との交流も楽しみだ。



ワクワクのある人生は,すてきだと思う。







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走行の力学 (3) ~ パワーと重さ

Posted by リキ on 08.2014 ロードバイクの理科的考察   16 comments   0 trackback

パワーは,前回の記事で書いたように,誤解の多い言葉です。

パワーに相当する日本語がたくさんあるのも混乱の元です。

パワー = 仕事率,工率,動力

三つとも同じことを指しています。



パワーは 「単位時間あたりの仕事量」 という意味を持ちます。


くだけた言い方をすれば,

「決められた時間内に,どれだけたくさんの仕事をしたか」 ということです。

こう書くと,きゅうくつな感じがしてきますね。

「おまえは今日の勤務時間内に,どれだけの成果を上げたんだ」 と言われているようなものですからね。

パワーとはまさにこういうことです。

仕事率,工率など,「率」 という字が着いたとたん,それは比率や効率を問われる問題だからです。



「効率」 というものは,うまく使えばまさに効率的,余裕を生み出します。

下手に使えば,非人間的,数字に走って,「効率的であることしか考えていないのか」 ということになります。

それはもう,その人次第,使い方次第ということになるでしょうか。



さて,この仕事率をもう少し具体的な姿にしてみましょう。



2時間エンデューロ (時間を固定) でたとえるなら,質量と距離の関係です。

体重が同じなら,周回数が多いほど,大きなパワーを出したことになります。

周回数が同じなら,体重の重い人の方が,大きなパワーを出したことになります。

出力 (出せるパワー) が同じなら,体重の軽い方が周回数が多くなります。




ロードレース (距離を固定) にたとえれば,質量とタイムの関係です。
(ドラフティングを考えないという条件で)

体重が同じなら,早くゴールした方が,大きなパワーを出したことになります。

同時にゴールしたのなら,体重の重い人の方が,大きなパワーを出したことになります。

出力 (出せるパワー) が同じなら,体重の軽い方が早くゴールできます。



いずれにしても,質量 (体重とパイクの重さ) は大きな要素です。

そこで,

「ウェイト パワー レシオ」(質量とパワーの比率) が重要な問題として浮かび上がってきます。

いくらパワーがあっても,体重が重ければ意味がありません。

大きなパワーを出すのが苦手でも,体重が軽ければ,対等に戦えるかもしれません。

体重の軽い人が大きなパワーを持てば,鬼に金棒です。

体重とパワーの比率が重要なのです。

ヒルクライムレースで上位に入る選手は,5 W/kg (体重 1kg あたり 5 W) 以上の出力を出し続けられるようです。

といっても,パワーメーターを持たないぼくにとって,それがどれくらいキツいものかはわかりませんが (笑)


スポーツカーも パワーウェイトレシオ は重要な問題ですね。

非力なエンジンでも,車体が軽ければいいんです。
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昔のロードスターは,重さが 1 t を切っていましたね。



車のエンジンの出力も,「KW」(キロワット) というパワーの単位で表されています。

昔は,「馬力」 で表されていましたが,これもパワーの単位です。

280馬力! なんていう謳い文句が懐かしいです。

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ちなみに,1 馬力 = 約 746 W です。

1馬力は,ごく短時間,人の出せる限界に近いような出力ですね。



よく,自転車乗りも 「肝心なのは機材ではなくエンジンだ」 という言い方をしますよね。

これもまさに,パワーのことを指しているわけです。

自動車のエンジンとのちがいは,トレーニングによって出せるパワーを増やすことができるという点ですね。






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走行の力学 (2) ~ パワーとは何か

Posted by リキ on 05.2014 ロードバイクの理科的考察   8 comments   0 trackback


前回は 「仕事量」 について書きました。

今回は,そこから話を進めます。



峠を真っ直ぐ登っても,蛇行して登っても,仕事量は同じ。

軽いギアでくるくる回しても,重いギアを踏んでも,仕事量は同じ。



ただしこれは,速度のことを横に置いといての議論です。

実際に自転車を走らせると,ここへ,「時間」 という要素が入ってきます。


その峠を何分で登ることができるか,ということは大きな問題だからです。


仕事量が同じでも,短い時間でその仕事を終えようとすれば,たいへんです。

長い時間をかければ,楽です。



前回の設定から話をつないでみます。




【パワーの単位 ワットとは】


自分の体重とバイクの重さを合わせて 72kg の人が,高度差 100m の小さな峠のピークまで登るとします。

このときの仕事量は,72kgf × 100m = 7200 kgf・m となります。



この峠を10分かけて登ったとします。

(かなりゆっくりという設定です)

すると,1分あたりの仕事量は,10でわって, 720 kgf・m。

1秒あたりの仕事量は,さらに60でわって,12 kgf・m。



物理学では,この1秒あたりの仕事量を 「パワー」 と呼んでいるのです。

1秒あたり 12 kgf・m を 「W(ワット)」という単位でも表せます。


1W = 0.102 kgf/s ですから,

12 kgf・m/s は,約118W です。




【誤解を生みやすい言葉 「パワー」】


「パワー」 という言葉は,日本人にとって誤解を生みやすい言葉です。

日常生活で,「パワー」 というと,「力」 というイメージです。

そこで,パワーメーターは力の大きさをはかる機器のように誤解されますが,それはちがいます。

ペダルを踏む力という意味での,「力」 は物理学では 「フォース(force)」 です。


「パワー」 という言葉は,日常生活では 「力」 ですが,

物理学上でのパワーは 「仕事率 = 単位時間あたりの仕事量」 です。

「決まった時間内に,どれだけの仕事ができるか」 を表したものが,「パワー」(=仕事率) なのです。

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仕事率は,ここで書いたように,いくつかの数値で計算して求められるものです。

つまり,パワーの数値は,「力」 を測った結果ではなく,仕事率を計算して求めた結果なのです。


誤解を恐れずに平たく言えば,「どれだけ重いものを,どれだけ速く運べるか,ということをあらわした数値」 なのです。

ここでの 「重いもの」 とは,負荷と考えればいいのです。

自転車走行では,坂道での重力に対する負荷や,空気抵抗に対する負荷です。



実際のパワーメーターは,チェーンリング,チェーン,ハブなどの駆動系に加わる力の大きさを測っています。

そのデータをケイデンスなどを含めて,サイコンで計算して求めています。




【タイムや体重によるパワーの変化】


はやく登るためにはたくさんのパワーが必要で,ゆっくり登ればパワーはさほどいりません。


さきほどは,この峠を10分で登れば,平均出力 (パワー) は 118W でした。

こんどは,この峠を 8分(480秒)で登ったことにしてみましょう。

この場合の平均出力は,15 kgf・m/s 。

これをワットに換算すると,147 W となります。

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早く登ろうと思ったら,当然大きなパワーが必要だということです。



こんどは,体重を変化させてみましょう。

食欲の秋ということで,4.8kg 太りましたが,タイムは同じ 8分で登れました。

すると,仕事量は,

76.8 kgf × 100 m = 7680 kgfm となりますから,

  7680 kgfm ÷ 480 s = 16 kgf/s

W (ワット)で表せば,156 W です。

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太ったのに同じタイムを出そうとすると,パワーが余分に必要なのです。



逆に,太ったのに同じパワーしか出せない場合を計算してみましょう。

仕事量を仕事率で割れば,時間が出てきます。

  7680 kgfm ÷ 15 kgf/s = 512 s

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つまり,太る前は 8分(480秒)だったタイムが,8分32秒(512秒)に落ちるのです。



こんどは,軽量化してみましょう。

体重を絞り,機材交換して,4.8kg の軽量化を達成したとします。


すると,仕事量は,

67.2 kgf × 100 m = 6720 kgfm となりますから,

出力は先ほどと同じ 15 kgf・m/s とすると,タイムは

  6720 kgfm ÷ 15 kgf/s = 448 s

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つまり,軽量化前は 8分(480秒)だったタイムが,7分28秒(448秒)に短縮されるのです。





これが,パワー(=仕事率) の基本的な考え方です。


次は,自転車特有のパワーの求め方,パワーメーターのことなどを書いてみたいと思っています。




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走行の力学 (1) 仕事量 ~ 蛇行は得か損か

Posted by リキ on 03.2014 ロードバイクの理科的考察   14 comments   0 trackback


久しぶりにロードバイクの理科的考察。



パワーメーター,パワートレーニング…。

自転車のトレーニングで 「パワー」 という言葉を聞いたことのある人も多いと思います。

「パワー」 とは何者か。

そんなことをまとめてみたいと思います。

ただし,相当ややこしい議論になるので,少しずつ。

第1話は蛇行の話。



きつい坂道で,「もうダメだ」というとき,蛇行して登るという技があります。これは,まっすぐに登るより楽になりますが,それは 「得をしている」 と言えるのでしょうか。




物理学上では 「仕事量」 という概念があります。

これは,「 力の大きさ × 距離 」で表される量です。

「仕事のエネルギー」 と呼ぶこともあります。

運ぶものが重いほど,多くのエネルギーが必要です。

運ぶ距離が長いほど,多くのエネルギーが必要です。



たとえば,体重とバイクの重さを合わせて 70kg で,高度差 200m の峠のピークまで登るとします。

このときの仕事量は,70kgf × 200m = 14000kgf・m となります。

( 70kgf は,70kg のものを持ち上げるのに必要な力 )


ここで,ピークまで道が,

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A:直線的にぐいぐい登っていく道

B:うねうねとつづら折りで登っていく道 ( 下り区間なし )

の二つがあるとします。



この場合,Aは距離が短く,Bは長いですが,どちらの道を通っても,最終的に高度差 200m を登ることは同じです。

そこで,それぞれの道で登頂するのに必要な仕事量(エネルギー)は,直線的に登っても,うねうねと登っても,14000kgf・m で同じなのです。


しかし,Aは,直線的に登りますから,走る道のりは短いですが,勾配が急なので,登るためには大きな力が必要です。

一方,Bは,うねうねと登るので,走る道のりは長くなりますが,勾配はゆるやかですから,小さな力で登れます。


つまり,

道のり 短 → 力 大

道のり 長 → 力 小

両者の積はつねに一定なのです。


言い方を変えれば,どちらの道を通っても体重と標高差は同じですから,必要なエネルギー量は同じです。

距離で稼ぐか,力で稼ぐか,ということです。


これは,「ケイデンス」 と 「ギアの重さ」 の関係と同じです。

同じ速度で走るなら,

ケイデンス小 → 重いギア

ケイデンス大 → 軽いギア

となります。

重いギア (力) で稼ぐか,ケイデンス (ペダルを回す距離) で稼ぐか,ということです。



冒頭の問いかけの答えは,ごく普通の答えです。

蛇行すれば,小さい力で登れますが,長い距離を走ることが必要です。
直登すれば,短い距離ですみますが,登るのに大きな力が必要です。

両者の仕事量は同じですから,ひとくくりにどちらが損をしているとも,得をしているとも言えません。

仕事量が同じなら,必要なエネルギーは同じですがら,力に任せてぐいぐい行くか,力を少し抜いて遠回りするか,好みに合わせて選択すればいいのです。

ごく普通の答えで申し訳ありませんが,「パワー」 の概念を理解するための基礎が 「仕事量」 の概念ですので,あえて書きました。




仕事や人生も同じですね。

大きな力で直線的に勝負するか,やんわりと遠回り的にゴールを目指すか

仕事量が同じなら,そのときどきで,仕事内容に合ったアプローチが考えられます。

また,今までの自分では選択しなかった新しいアプローチを試みるのも,おもしろいかもしれません。


よく思います。「力学は哲学だ」 と。




今回は,距離 と 力 だけを取り上げましたが,実際にはここに 「時間」 という要素が関わってきます。

時間の要素が入ってくると,「仕事量」 が,「パワー」 の概念につながります。

その話は,また次回に。





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インフレーターはなぜ CO2 を使う?

Posted by リキ on 14.2014 ロードバイクの理科的考察   18 comments   0 trackback


前回,チューブへ充填した二酸化炭素は,なぜ抜けやすいかを話題にしたところ,新たな課題をいただきました。

またもや,面倒な話の展開になりますが,ご容赦のほどを。
面倒な話が嫌いな方は,早めにこのページを離脱された方が賢明かと…(笑)



その課題は,

「空気か窒素のボンベを作って充填すればいいのに,なぜわざわざ抜けやすい二酸化炭素なのか」



【タイヤに入っている空気はどれくらいの量?】

まず,タイヤに入れる空気というのは,どれくらい入っているかというと,簡単に見積もって,チューブの体積が 900mL。7気圧まで入れるとすると,その7倍ですから,6 L 以上の体積です。

6 L の空気を持ち運ぶことは,1.5L のペットボトルを背中に4本背負うことに…(笑)

14_0514_03.jpg

そんな姿でライドをするわけにはいきませんから,気体を圧縮する必要があります。

どうせ圧縮するなら,「液化」 してしまう方が便利です。

気体を液化すると,ものすごく体積が小さくなるからです。



【液化とは?】

空気やガスなどの 「気体」 は,ひとつひとつバラバラになった分子が,音速で空間を自由に飛び回っています。

水や油などの 「液体」 は,分子がバラバラになってはいますが,押し合いへし合い,密集してうごめいています。

14_0514_06.jpg


そこで,気体が液体になると,体積は,ふつう何百分の1にも小さくなります。

6 L の気体を液化させれば,10mL 程度の体積にまで圧縮することも可能です。

ですから,気体をコンパクトにして保管,運搬しようとしたら,液化するのが一番です。

そこで,天然ガスやプロパンガスは液化したものをボンベに入れて保管,運搬します。

容器が透明なライターなら,ブタンガスが液化されているのがよくわかります。

14_0514_01.jpg

カセットコンロのボンベも中は液体ですよね。


しかし,気体を液化するのはそんなに簡単ではありません。

勢いよく空間を飛び回っている連中を,無理矢理一カ所に集めて,暴れないように押さえ込むようなものだからです。

14_0514_04.jpg

ですから,気体を液体にするには,高い圧力をかけることが必要なのです。

週末,外を走り回りたいローディーを,家庭内にとどめておくためには,それ相当の圧力をかける必要があるわけです(笑)



【なぜ,二酸化炭素か?】

それなら,空気や窒素だって,気体ですから,高い圧力をかけてやれば液体になって,簡単に持ち運べるようになりそうですが,どうでしょう。

そうすれば,抜けやすい二酸化炭素などを使う必要がなくなります。



しかし,それはできません。

空気を構成している窒素や酸素は,最も液化が困難な部類の気体です。

窒素が液体になる温度は,マイナス 195℃ という超低温です。

超低温まで冷やすことで,やっと分子の動きが鈍くなるので,なんとか動きを押さえ込んで,液体にすることができるのです。

それだけ,窒素分子の動きを押さえ込むのはむずかしいということです。


液体窒素は,皮膚科でイボを焼くのにも使われるなど,身近になった物質です。

しかし,液化させた後もおとなしくしていません。

つねに激しく蒸発して気体になり続けるので,液体窒素は,通常ふたをしないで持ち運びます。

密閉してしまうと,蒸発し続ける窒素の圧力で容器が爆発してしまうのです。

押さえ込もうとすると,大きな危険を伴う暴れん坊なのです。



それにたいして,二酸化炭素の液体になる温度は,マイナス 78℃ です。

窒素と違って,少し冷やして,圧力をかけて押さえ込めば,比較的おとなしくしていてくれます。

ほかにも,押さえ込みやすい (液化させやすい) 気体はいくつかありますが,可燃性だったり,毒性があったりするものがほとんどで,二酸化炭素のように扱いやすい気体はほとんどありません。

14_0514_05.jpg


ぼくの知っているローディーは,押さえ込むのがむずかしい窒素タイプより,おだやかな二酸化炭素タイプが多いようです。


ということで,あの小さなボンベの中には,圧力をかけて押さえ込んだ,二酸化炭素の液体が入っています。

それでも,おそらく,80気圧以上の圧力をかけているはずです。

14_0514_02.jpg

ですから,あの小さな容器は相当頑丈に作られた容器です。

ずしりと重たいですよね。


二酸化炭素分子は,その圧力から解放されると,気体にもどります。

「自由になれたぞ~」 と,高速で空間に飛び出していくのです。

都合のいいことに,そのときの飛び出す勢いで,チューブを膨らますこともできるのです。

しかし,インフレーターの部品や,ボンベ自体が,吹き出す高圧の二酸化炭素で飛ばされる恐れもあるわけですから,気をつけましょう。



また,液体が気体にもどる際には,高速で飛び出していくためのエネルギーを,周りから強引に奪い取ります。

そのため,ボンベを開けたとたん,エネルギーを奪われたボンベの温度は,急激に下がります。

ボンベを素手で握って二酸化炭素を充填すると,凍傷を負う危険があるというのは,こういうわけです。



外で走り回りたいローディーをあまり無理に家庭内に押し込めておくと,解放された瞬間,家庭内のお金を強引に持ち出して,飛び出していくおそれがあります。

こうなると,ボンベ同様,家庭は一気に冷え込みます。

凍傷には十分ご注意を!



【結 論】

二酸化炭素は,圧縮して液化させやすいだけでなく,安全性,扱いやすさ,コスト面においても,ほかに並ぶものがない。



【ふろく】

16g 入りのボンベに入っている二酸化炭素の量を体積にすると,どれくらいでしょう。

計算してみると,約 8 L でした。

ロードバイクなら,チューブ内の圧力を7気圧にするためには,6 L 程度が必要ですから,16g のボンベなら,十分な量です。

2本分にはなりません。



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CO2 インフレータ ~ 二酸化炭素はなぜ抜けやすい?

Posted by リキ on 12.2014 ロードバイクの理科的考察   22 comments   0 trackback

パンク修理でおなじみの,CO2 インフレーター。

小さなボンベから二酸化炭素をチューブ内に一瞬で充填できる,あの頼りになるヤツ。

先日のライドでも,お世話になった。

ありがたや,ありがたや。



ここで,以前から気になることがある。

それは,「二酸化炭素は抜けやすいので,改めて空気を入れ直した方がよい」 と言われること。

この話は,にわかに信じがたいものだった。

「空気より,二酸化炭素の方が抜けやすいなんて,あるわけがない」…,そう思っていた。


でも,これは,多くの経験者が語るように事実らしい。

あれこれ検索してみると,実験的にそれを検証している ブログ記事 もあった。




インフレーターを持っていないので,経験的なことを知らないぼくは,まったくの理屈で考えていた。

空気や二酸化炭素などの気体が 「抜ける」 ということは,機械的な隙間から,分子が出ていくということだ。

そこで,二酸化炭素の方が抜けやすい理由は,「二酸化炭素の粒子(分子)の方が,窒素より小さいから」 と,ネット上のいろいろなところで説明されていた。

しかし,これはまちがった説明だ。

これを見てほしい。

14_0512_01.jpg

これは,実体積分子模型。 (いちおう,科学教育が専門だから,こんなもの持ってる)

左が,空気の80%を占める窒素分子 N2。 右が,二酸化炭素分子 CO2。

短径も長径も,二酸化炭素の方が一回り大きいのです。

大きな分子の方が,抜けやすいとは,どうしたことなのか?

そもそも,二酸化炭素は,どこから抜けてくるのか?

バルブの隙間? ゴム膜そのもの? 

それとも,抜けるのではなく,ゴムと化学変化を起こして別のものに変わる?



これ以上は素人考え休むに似たりと,パナレーサーの製造元に質問を出してみた。

すぐに,回答をいただいた。

その答えに驚愕!

ぼくなりの 「意訳」 で紹介したい。



まず,チューブの多くはブチルゴムでできている。その分子は,イソブチレンで,これが長くつながって複雑に絡み合い,ゴム膜を作っている。

つまり,チューブのゴムは,ほぼ,炭素(黒)と水素(白)ばかりでできている。

14_0512_02.jpg

しかし,このつながりの間には,原子レベルのごく小さな隙間が存在する。

ごく小さな隙間なので,窒素や酸素の分子,つまり空気は通り抜けることができない。

つまり,チューブ内の空気は抜けない。

しかし,二酸化炭素分子は特別で,隙間よりも大きいくせに,この隙間をすり抜けるというのだ。

それは,まるで,水に砂糖が溶けるかのごとく,「ゴムに,二酸化炭素が溶けていく」 のだそうだ。

同じ炭素原子 (図の黒い粒) を構造の中心に持つもの同士,仲がいいらしい。

「溶ける」 といっても,「なくなる」 という意味ではない。

分子レベルで,「混ざり合う」 という意味合いだ。

つまり,二酸化炭素は,ゴム膜の分子にある小さな穴に頭を突っ込み,ぐりぐりとゴム膜分子の中に溶け込むように入り込み,やがて向こう側に達すると,にゅるっとゴム膜の表面に顔を出し,チューブの外へと抜け出していくわけだ。

チューブ内の7気圧という高圧が,それを後押ししている。


一方で,窒素や酸素は,炭素原子を持たないので,チューブのゴムにとってみれば,やや異質な存在。

異質な奴らは,なかなかゴム膜の内部に入り込めないということだ。


「溶ける」 という現象には,相性がある。

水に溶けない油汚れも,ディグリーザーならすっと落ちる。

逆に,水に溶けていたドリンクの汚れは,ディグリーザーよりも水の方がずっとよく落ちる。



ぼくは,海沿いの道よりも,山中の道と相性がいい。

同じパワーを使うなら,平地を高速で走るよりも,坂道をゆっくり走るスタイルと相性がいい。



そこで,チューブのゴム膜を抜けていく二酸化炭素の様子を想像していたら,思いついた。


そう,相性のいい方が,壁を突破しやすいのだ!

まずは,相性のいいところで力をつけて,自信をつければいい。

難しい壁を突破するには,やはりエネルギーも時間もかかる。


チューブのゴム膜を突破した窒素分子は,さぞかし大きな達成感を得ていることだろう(笑)


うん,なかなか哲学的な結論となった!




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ブレーキの力学 (2) コーナリングとグリップ力

Posted by リキ on 07.2014 ロードバイクの理科的考察   14 comments   0 trackback


ローディーの安全を大きく左右するブレーキ。

ブレーキングを力学的に考えるとどうなるだろうか。

その第2回目。

今回は,コーナリングとブレーキを話題にします。


まず,基本から。

タイヤ走る乗りものは,走る,止まる,曲がるの基本動作のすべてが,タイヤと路面の摩擦力を利用しています。

ちなみに,ここでは,摩擦力と言わず,グリップ力といった方がイメージしやすくなります。

タイヤのグリップ力を使うことで,自転車は加速したり,減速したりします。

加速でも減速でもないとき,すなわち,ペダルを止めて慣性で直進しているときは,グリップ力を,ほとんど使っていないと考えることができます。


ところが,コーナリング中はちがいます。

ペダルを漕ぐ足を止めていても,タイヤはグリップ力を使っています。

それは,前方向でも後ろ方向でもありません。

横方向です。

自転車がコーナーを回っているとき,体とバイクはコーナーの外側へ押し出されるように遠心力を受けます。

これに対して,タイヤがグリップすることで,タイヤは路面を外側へ押し,その路面からは反作用の力を受け取り,自転車は内側へ曲がっていけるのです。

つまり,自転車がコーナーを曲がっているときには,加減速をしていなくても,路面からタイヤへずっと力を受け続けています。

言葉を換えると,コーナリング中は,ずっとグリップ力を使い続けている,ということです。


ところで,グリップ力には限界があります。

コーナリング中,加速も減速もしなければ,コーナリングののためだけに,グリップ力を全部つかうことができます。

しかし,とちゅうで,ブレーキをかけた場合,コーナリングとは別方向のグリップ力を使うことになります。

そうなると,一部のグリップ力が減速に使われるため,コーナリングに使えるグリップ力は減ってしまいます。

つまり,横方向のグリップ力の限界が下がり,ねらったラインよりも,外側へふくらんでしまうことににもなってきます。
140207_4.jpg

もちろん,これは,減速だけでなく,加速する場合も同じです。

つまり,曲がるためのグリップ力を最大限使おうと思ったら,コーナリング中の加減速はしない方がよいのです。



現実の場面では,こんなことになります。


高速でコーナリングを開始したら,思っていたよりきついカーブだった。

そこで,速度を落とそうとして,ブレーキをかけた。

ところが,さらにラインがふくらんで,反対車線へ大きくはみ出してしまった( または,曲がりきれずに壁に衝突してしまった )。


曲がりきれないと思ったとき,反射的にブレーキを強くかけてしまいがちです。

しかし,それは,横方向のグリップ力を奪ってしまうので,曲がりきれない状態を悪化させてしまいます。



次の図は,コーナリングに使う横方向のグリップ力と,加減速に使う縦方向のグリップ力の相関関係を表した図です。

横方向と縦方向のグリップ力は,単純な数値のたし算ではなく,ベクトルのたし算になります。


140207_2.jpg


合成されたベクトル(黒の矢印)が,円周上の点まで伸びていれば,それは,限界までグリップ力を使っているということです。

A図は,横方向のグリップ力だけをめいっぱい使っている場合。

B図は,軽くブレーキをかけた場合で,横方向のグリップ力が少し減っているのがわかると思います。

C図は,強くブレーキをかけた場合で,コーナリングに使えるグリップ力がぐっと小さくなっているのがわかると思います。

D図は,グリップ力に余裕がある場合です。ななめの黒矢印が円周上に達していないので,グリップ力を限界まで使っていません。この場合,横方向のグリップ力を変化させずに,ブレーキをさらに強くかけることができるのです。

ここからわかることは,グリップ力を限界まで使っていると,加減速がシビアにコーナリングへ影響してくるのに対し,グリップ力に余裕のある速度なら,挙動が急に不安定にならないということです。。

つまり,よく言われるように,十分に減速してからコーナーへ入れば問題ないわけです。



さて,下りのコーナリングは,どんどんスピードが出てしまうため,ブレーキをかけないわけにはいきません。

その際は,一定のブレーキングなら,前後のグリップ力変動がありませんから,横方向のグリップ力も一定で,安定したコーナリングが可能でしょう。

制動力に大きな変化がついた場合,コーナリングが不安定になるのです。




それにしても,かなりの速度でコーナーに進入してしまい,「曲がりきれない!」 という状況になってしまったとき,どんな対処ができるのか,ぼくにはわかりません。

ラインに余裕があれば,直進することを覚悟でフルブレーキングし,速度を落としてから,ブレーキを解放してコーナリングにもどる,そんなことができれば,一番いいでしょうね。

絶対に曲がりきれないとなったら,直進してフルブレーキングの末,安全な場所へ突っ込めば,落車のダメージが少ないかも知れません。

あるいは,カウンターを当てるように,ハンドルを逆操作してバイクを内側へ倒し込めば,ギリギリのコーナリングが可能かも知れません。

いずれにしても,これは高度な技術が必要でしょうから,ロードバイク上級者の方に聞くしかありませんね。



ぼくのような初級者は,十分に減速してコーナリングすれば安全です。


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プロフィール

リキ

Author:リキ
 50代後半からのロードバイク人生。年より初心者が行く!(モーツァルトも大好き!)

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